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2023年 夏号(44号 vol.12 no.2)

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AYA世代乳がんの 未来を支える

聖路加国際病院
腫瘍内科・AYAサバイバーシップセンター
副医長
北野 敦子

AYAって?

みなさんはAYAという言葉をご存知ですか?AYAは「A」と「YA」に分けられ、「A」は“Adolescent”(思春期)、「YA」は“Young Adult”(若年成人)を指します。この思春期・若年成人期を総称してAYA世代と呼びます。AYA世代の年代の定義は国により様々ですが、日本では15-39歳までと定義されています。

がん種の内訳は、思春期(Adolescent)世代では、血液がん、脳腫瘍、胚細胞腫瘍といった希少がんが多いのに対し、若年成人(Young adult)期では乳がん、子宮頸がんなどの固形がんが増えます。中でも、女性の乳がんは30-39歳の年代で最も罹患数の多いがんであると報告されています。

AYA世代がんへのがん対策

ピンクリボンNEWSをお読みになっている多くの方がご経験されたであろうAYA世代。もし、AYA世代にがんに罹患したら皆さんはどのようにお感じになりますか?

AYA世代は入学、卒業、就職、結婚、妊娠・出産、子育てなど人生でもっとも変化し、忙しい年代だと思います。そのような時期に「がん」という命に関わる病気を患うことは、身体だけでなく、心や社会生活にも影響を与えます。

AYA世代は壮年期、小児期の狭間にあり、かつては十分な対策が行われていませんでした。しかし、2018年4月から開始した第3期がん対策推進基本計画において「AYA世代のがん医療の充実」が1つの重要な施策として掲げられたことをきっかけに、国や都道府県、医療機関において様々な対策が講じられるようになりした。

そして、2023年4月から開始している第4期がん対策推進基本計画では、AYA世代がんの課題の1つである「妊孕性(にんようせい)温存」や「AYA世代がんの療養環境支援」といった、より具体的な事項が対策案の中に盛り込まれ、今後さらに支援が充実することが期待されます。

AYA世代の乳がん

現在、日本では年間約9万人が乳がんにかかると報告されていますが、そのうち40歳未満の患者の割合は全体の約5%程度です。(国立がん研究センターがん情報サービス「がんの統計2019」より算出)

AYA世代の乳がんではその他の世代と比べ、遠隔転移リスクが高いことが複数の論文で報告されています。また、ホルモン感受性陰性、HER2陽性といった悪性度の高いサブタイプが多く、組織学的グレード3や、リンパ管侵襲・脈管侵襲も多いといわれています。その結果、生存期間もその他の年齢と比べ悪い傾向があります。

また近年、注目されている遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)といった、遺伝性疾患の割合もその他の世代より高いことがわかっています。AYA世代の診療に際しては、こういった生物学的な特徴を理解した上で、治療を計画していく必要があります。

また、生物学的な悪性度だけでなく、治療による妊孕性(妊娠できる力)の低下や、ボディーイメージの変化、セクシュアリティ、子どもや育児への影響など年齢特有の心理社会的な支援も不可欠です。

AYA世代がん患者への妊孕性温存

AYA世代がん患者さんの悩みの1つに、がん治療による「妊孕性低下」が挙げられます。抗がん剤治療により女性の卵巣機能は約10歳低下することが分かっています。また、乳がんの場合はホルモン治療も術後5~10年と長期間に及ぶため、加齢に伴う不妊のリスクもあります。

そのようながん治療による「妊孕性低下」が懸念される方では、がん治療開始前に卵子を採取し、卵子のまま保存する方法(未受精卵凍結保存)や、パートナーがいる場合は受精して保存する方法(胚凍結保存)などの「妊孕性温存療法」を受けることが可能です。妊孕性温存療法はかつては自費診療で行われており、AYA世代のがん患者さんにとっては大きな経済的負担でした。

しかし、2022年4月から国の公的助成制度が開始され、一定の基準を満たす方であれば、助成の対象となっています。また、現在は妊孕性温存療法を受けた方が生殖医療を用いてがん治療後に妊娠を目指す際に発生する費用に関しても助成が受けられるようになりました。

AYA世代がん経験者の未来のために

AYA世代でがんを経験した方が、その人らしくその後の人生を歩んで行くためには、行政や医療機関だけの取り組みでは不十分です。AYA世代がんは数が少ないからこそ、同じ病気を経験した仲間とのつながりが大切です。

私は2009年に聖路加国際病院で若年性乳がん患者さん向けのプログラムを開始しました。その後、そのプログラムを受けた患者さんたちが中心となり、現在は「若年性乳がんサポートコミュニティPink Ring」として活動を続けてくれています。

「がんになっても叶えたい未来がある」

AYA世代がんを経験された方の言葉です。
人生のたまたま早い時期に「がん」という病気と向き合うことになったAYA世代がんの方々。彼らが希望を持って歩んで行ける社会の実現には、多くの力が必要です。この記事を通して、AYA世代がんを知り、彼らの「未来」を支えたいと思って下さる方が増えると嬉しいです。


北野 敦子(キタノ アツコ)
学位:医学博士/公衆衛生学修士(専門職)
2005 日本医科大学卒
2017 昭和大学医学部大学院卒
2018 聖路加国際大学 公衆衛生大学院卒
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医
日本乳癌学会 乳癌専門医・指導医
日本外科学会 認定登録医
厚生労働省認定 臨床研修医指導医