乳がんに向き合う方々へ届ける~研究、そして未来への取り組み~
マンモグラフィ検診の受診率向上とブレスト・アウェアネスの普及、そして患者さん一人一人のニーズに合った診療情報提供と意思決定支援を目指して
社会医療法人近森会
近森病院 乳腺外科 部長
乳腺センター センター長
杉本 健樹
2025年11月28~29日に高知県立県民文化ホールで開催した第35回日本乳癌検診学会学術総会の展示ブースにJ.POSHのみなさまにご出展いただいたことを切っ掛けに、このピンクリボンニュースに投稿する機会をいただきました。今回の学会のテーマは「みんなで支える乳癌検診―すべてのひとにスポットライトを―」で、出来るだけ多くの職種のみなさまに乳癌検診の現状と課題、そして改善策について議論していただけるプログラムを企画しました。
■ブレスト・アウェアネスの普及
日本女性の乳癌の発見契機は乳房腫瘤の自覚が最も多く約半数で、次いで検診発見が3割となっています。症状のない検診発見がもっと増えれば乳癌で亡くなる女性を減らすことが出来るのですが、受診率が50%に満たないのが日本の現状です(目標70%以上)。また、自己発見のためにブレスト・アウェアネスは大変重要な健康習慣ですが、高知県の健康イベントで昨年行ったアンケート(30歳代、40歳代の女性を中心に417人を対象)では、80%以上の女性がご自身の乳房に関心を持っていると回答しているにも関わらず、ブレスト・アウェアネスの認知度はたったの5.0%でした。全国でも同様の傾向があり、ブレスト・アウェアネスの普及はまだまだ不十分です。今回の学会を通して40歳以上の女性のマンモグラフィ検診受診率の向上とブレスト・アウェアネスの普及が急務であることが浮き彫りとなりました。
一方で、乳癌治療の進歩は目覚ましく様々な治療法が開発され乳癌患者さんの予後の向上に寄与しています。早期発見と適正な薬物療法は乳癌死亡を減らすための車輪の両輪と考えます。
■治療方法の選択肢
乳癌ではサブタイプ(生物学的な性質)や病期(乳癌の量や転移の有無)そしてご本人の健康状態や遺伝的素因に応じて適正な治療を選択することが必要となります。しかし、治療開始までのわずかな期間で、どのような手術を受けるのか(乳房温存 と 全切除)、全切除の場合の切除法(乳輪・乳頭温存 と 切除)や乳房再建の有無と再建方法(自家組織 と 人工物)の選択、サブタイプと病期に応じた適正な薬物療法の選択と治療のタイミング(術前 と 術後)、遺伝リスクを調べるための遺伝学的検査(現在、保険適応となっているのは遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子BRCA1/2検査)とその結果による術式や予防手術の選択、更に若年者では妊孕性温存への対応法など非常に多岐に渡る選択と決断が必要となります。
ご存じのように乳癌は日本人女性では最も多いがんで、特に65歳以下の現役世代の女性が半数を占めるところが他癌腫と大きく違うところです。そのため、科学的根拠に基づいた適正な治療を提供すると同時に、患者さんが社会生活・家庭生活を維持しながら治療を受けられるようにさまざまな職種による支援が必要となります。また、ご本人らしい選択ができるように一緒に考えていくことが医療者の大変重要な役割と考えています。
■チーム医療の実践
私が勤務する社会医療法人近森会 近森病院はJR高知駅の前にあり救急車の受け入れは常に高知県1位という高度急性期病院です。私が赴任した2024年4月の時点では、乳癌手術患者数は年間10例前後でした。乳腺センターを開設してもうすぐ2年になりますが、年間100人を超える原発乳癌患者さんの手術を行うようになりました。
このような状況の中で、乳腺(外科)専門医2名と乳癌看護認定看護師1名が中心となって、院内のさまざまな職種のひとたちに対する教育・啓発を行い、多くの診療科、多職種の皆さんと共同して、また、院外から非常勤で緩和ケアや画像ガイド下針生検を行う医師たちやリンパ浮腫療法士(看護師)の支援を受けてさまざまなニーズに応えることのできるチーム医療を実践しています。
がん告知を受けて心に動揺のある中で、初めて聞く言葉も多く難解で多様な情報を受け止め短期間で判断し治療方針を決めていくのは患者さんにとって大変難しい作業です。患者さんの言葉に耳を傾け、ご本人らしい治療選択が行えるようにチームで支えていくことがわれわれの使命と考えています。
略歴
杉本 健樹(すぎもと たけき)
1959年生(66歳) 1985年 高知医科大学(現、高知大学医学部)(II期生)卒業、1989年 同大学院修了。その後、1996年まで消化器外科医として県立病院や大学に勤務。1997年から乳癌診療に携わり、2007年外科の准教授、附属病院の病院教授に就任。2011年 臨床遺伝診療部、2015年 乳腺センター、2019年 がんゲノム医療センターを立ち上げ、併任でそれぞれの責任者として活動。2024年 社会医療法人近森会 近森病院の乳腺センター長に就任し現在に至っています。


