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2023年 春号(43号 vol.12 no.1)

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グローバル時代の乳がん患者サポート

Japanese SHARE 臨床アドバイザー
一般社団法人 BC Tube 理事
田原 梨絵

皆さんがもし海外に住んでおり、異国の地で乳がんの診断を受け、治療を受けることになったら、どれほど不安な状況になるか想像できますか?海外に住む日本人の増加と共に、医療システムと言語が異なる国で乳がんの治療を受ける日本人の患者さんが数多くいます。

アメリカ在住日本人乳がん患者サポート

私が臨床アドバイザーを努めておりますJapanese SHAREはアメリカ在住の日本人乳がん患者さんをサポートする非営利の患者支援団体です。母体はSHARE-USAという組織で、全米の乳がん・婦人科がん患者さんを支援しています。

アメリカで暮らす日本人は約50万人と言われ増加傾向であり、アメリカで乳がんと新たに診断される日本人の患者さんが全体で毎月どれくらいいるのか把握できておりませんが、毎月数名の方からJapaneseSHAREのヘルプラインに連絡をいただいています。月に1回開催しているオンライン患者サポートミーティングには全米から患者さんが参加され、様々な悩みを分かち合っています。

乳がんと診断され医師から説明を受ける際、患者さんにとっては日本語でも理解が難しい面が多々あります。日本とは医療システムが全く違う異国の地で乳がんの診断を受け、英語で医療者とコミュニケーションを取り、治療を受ける過程において、医師の説明が通訳を通しても理解できない、治療方針に納得できないまま治療が組まれてしまった、など様々な困難が生じるのが現状です。

また、このままアメリカで治療を受けるか、日本に帰国して治療を受けた方がいいか悩まれる患者さんも多く、多方面からサポートを行なっています。

コロナ禍で開始したオンライン勉強会では乳がんに関するものだけではなく様々な医療トピックスの勉強会を行なっており、日米はもちろん世界中から100人〜300人が参加され、アメリカ在住者に限らず誰にでも役に立つ医療情報の発信も行なっています。

海外在住日本人への医療支援

また、外務省の調査によると、令和3年度の時点で海外在住日本人は約134万人に至ります。コロナ禍において海外渡航が制限され、私のような海外在住者は通常であれば一時帰国して日本の医療機関を受診するような場合でも滞在国で医療を受けざるを得ない状況に陥りました。

日本と比較すると医療体制が十分ではない国に在住している日本人も多く、日本と医療事情が異なる海外において医療面での不安が高まった海外在住日本人に対して、外務省が2022年2月〜3月の2ヶ月間、「海外在留邦人向けオンライン医療相談・精神カウンセリング提供事業」を無料で提供しました。

私は乳腺外科の相談担当医として事業に参加し、私が担当しただけでも2ヶ月間で約100人から相談を受けました。アメリカだけではなく世界中いろいろな国で乳がんと診断され、中には英語以外の現地語という言葉の壁や医療レベルの低さという不安を抱えながら異国の地で治療を受けている日本人の患者さんが数多くいることを痛感いたしました。

この経験から、アメリカだけではなく、世界中に住んでいる日本人乳がん患者さんへの手を差し伸べることができるサポート体制を広げていく予定です。

在留外国人の乳がん患者サポート

さらに、日本国内に目を向けると、在留外国人数は約270万人おられ、日本で乳がんと診断される外国人も相当数いることが予想されます。日本人が海外で乳がんの治療を受けるのと同様に、日本に住む外国人にとっても異国の地でのがんの診断・治療は様々な困難が伴うことでしょう。

そのような患者さんのためのサポートとして、「Breast Cancer support meeting in English」を2023年3月から開始します。患者さん同士で英語で心情や情報を分かち合い、日本での治療に少しでも役にたつ場を提供できればと思っております。

これらの患者サポートと共に、一般社団法人BC TubeやInstagramでの乳がんの情報発信など、多方面から日本人の乳がん患者さんを支える活動を行なっています。海外に住む日本人乳腺科医として微力ながら自分でできることを一つ一つ大切に行い、世界中に住んでいる不安を抱えた患者さんや家族にとって架け橋となれるよう、これからも精進していきます。

サポートが必要な海外在住の患者さん、あるいは日本在住の外国人の患者さんがおれらましたら、直接ご連絡をいただければと思います。


田原 梨絵(たはら りえ):
アメリカ在住(在米8年)。2004年北海道大学医学部卒業。仙台医療センターで初期研修後、聖路加国際病院にて乳腺外科レジデント、浜松オンコロジーセンター乳腺科、亀田総合病院乳腺科に勤務。2014年渡米、ダナ・ファーバー癌研究所Research Assistant、MDアンダーソン癌センターResearch Intern。現在Japanese SHARE臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事。
email: rietaharar@gmail.com