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2022年 冬号(42号 vol.11 no.4)

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「“がんに効く”○○」は 信じて大丈夫? 医療情報の見極め方・ 向き合い方を考えよう(2)

島根大学 医学部附属病院 臨床研究センター
教授 大野 智

前回、病気と診断され不安に襲われたとき、インターネットや書籍などを通じて医療情報を入手する際の注意点や正確な情報の意味について解説しました。今回は正確な情報をもとに、どのように意思決定をしていけばよいのかのコツやポイントを紹介していきます。

意思決定に影響を与える要因

人が物事を決めるとき「根拠」「資源」「価値観」が影響を及ぼすとされています(図1)(1)。

ここで悩ましいことがあります。「根拠」は、情報として正確かどうか見極めるためのルールがあります。しかし、「資源」や「価値観」は、人によって事情や考え方が異なり、唯一の正解というものがありません。

例えば「降水確率を“根拠”に、傘を持っていく・持っていかない」の意思決定の場面を考えてみます。あなたは、降水確率が何%だったら傘を持っていきますか?10%、20%、30%、40%、50%・・・。人によって傘を持っていく基準は異なります。

これは裏を返せば、特定の降水確率(例えば30%)が示されたときに、傘を持っていくと判断する人もいれば、傘を持っていかないと判断する人もいることを意味します。どちらかが正しい・間違っているということではなく、それぞれの人がそれぞれの「価値観」で、“正しい”と思う判断をしているわけです。

「資源」についても、もし傘を1本も持っていなければ(そのような人は稀だと思いますが)、そもそも傘を持っていくという意思決定をすることができません。あるいは、常に折りたたみ傘を携える労力をいとわない人にとっては、そもそも降水確率の数字(根拠)は意思決定に大きな影響は及ぼしません(このような人は、“絶対に雨に濡れたくない”という「価値観」の持ち主かもしれません)。

「価値観」は揺れ動く

普段は降水確率が30%であれば、『傘を持っていかない』と判断する価値観の人がいたとします。しかし、「友人の結婚式に参加するためドレスアップしている」「昨日買ったばかりの新しい服を着ている」という場面では、“服を雨で濡らしたくない”という思いが強く働き、降水確率が30%でも『傘を持っていく』と、普段とは異なる意思決定をすることがあるかもしれません。

つまり、人の持つ価値観というのは、一生変わらない頑強・強固なものではなく、時と場合によって180度変わったり、経験を重ねることでブラッシュアップされたりするものだと、捉えてみてください。さらに、このことは、一度下した意思決定であっても、変更したり、取り消したりすることもできることを意味しています。

納得のいく意思決定に求められること

意思決定の場面で「根拠」「資源」「価値観」を“腑に落ちた”というところまで、入手・整理・理解できれば、恐らくスムーズに納得のいく意思決定ができるでしょう。

しかし、「根拠」となる臨床試験の結果は「100%効きます!」「絶対治ります!」というものではなく必ず不確実性が伴います。つまり、効果が得られるかどうかは、やってみないとわからないのです。また前述の通り「価値観」は揺れ動きますし「資源」も人によって異なります。そうなると、どこかの時点でエイヤッと自らを“腑に落とす”作業が求められてきます。言い換えると、自分のことは自分で決めるという強い意志が求められるときがあるということです。

とは言うものの、人は物事を選択するときストレスを感じます。つまり、意思決定は難しいのです。そのため、人は意思決定の場面で迷ったり、悩んだりします。さらには意思決定をした後にも、自分の選択はベストだったのだろうかと葛藤したりします。

ヘルスリテラシー領域の研究で、日本人は、そのような悩み抱えたとき、相談する窓口を見つけることが苦手であることが指摘されています(2)。参考までに「がん」に関する相談窓口を図2に整理しました。

重要なのは『ひとりで悩まない』ことです。ただし、相談にあたっては、意思決定を他人任せにするのではなく、「根拠」「資源」「価値観」について専門家の意見を聞きながら、自らの頭で考え、理解を深めていく努力、腑に落としていく覚悟が大切です。このようにして自分で決めた選択は、たとえ結果が期待通りにならなかったとしても後悔はない(少ない)ものです。そして、そのことが納得のいく意思決定につながると、筆者は考えます。

[参考資料]
1)厚生労働省「統合医療」情報発信サイト:『もう一歩進んだ「情報の見極め方」:「根拠に基づく医療」(EBM)を理解しよう』
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint2/c03.html
2)健康を決める力:日本人のヘルスリテラシーは低い
https://www.healthliteracy.jp/kenkou/japan.html