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17号 vol.5 no.3

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がんと就労の現状課題

2016年2月23日厚生労働省より、がんなどと闘病しながら働く患者さんが治療と仕事を両立できるよう支援する初のガイドライン※1が公表されました。

乳がんの罹患者は30代より増加するため、就労中の方も多いのが実情です。海外では乳がん患者が治療を開始して2~3年後に仕事が継続できた人は56%と言う報告もあり、同様に日本においてもがん患者の就労が大きな課題となっています。本年度がん患者の職場復帰について法制化されたのを期に、法制化の元となった平成23~25年に厚生労働省が実施した検討会のレポートから現状についてまとめてみました。

今生まれた人が就労年齢70歳までにがんに罹患する確率(図1)によると、男性は22%(4.5人に1人)、女性は18%(5.6人に1人)が罹患するリスクを有しています。現に2012年の統計資料では、がん罹患者数(表1)は年々増加し95万人ががんに罹患しています。特に、高齢者の罹患者数が伸びてはいますが、就労年齢でも増えています。

一方で、がん医療の進歩は目覚ましく、5年相対生存率(図2)は上昇しており、がん再発の不安と闘いながらも生活のためにも仕事を続けて行く時代となっています。

がんと診断された方を対象に調査した結果※2サラリーマンで34%が依願退職、解雇。自営業等の13%が廃業しています。一方で引き続き勤務されているサラリーマンの方は48%に留まり、自営業等では68%が営業を続けておられます。

また、アンケート調査の結果※3ではがんと診断される前の平均年収が約395万円で診断後の平均年収が約167万円となっています。内訳では収入無やランクダウンされた人が約35%いらっしゃいます。

一連の調査後、内閣府がん対策に関する世論調査(平成25年1月調査)として「現在の日本の社会は、がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合働き続けられる環境と思いますか?」と言う設問に対し、「どちらかといえばそう思わない(35.9%)」「そう思わない(33%)」で計68.9%の人が仕事と治療の両立が難しいと考えています。これは、想像以上に厳しい現実ではないでしょうか?

以上がん患者・経験者の現状とおかれた状況ですが、就労を支援するために、「がん患者・経験者」「医療機関」「企業」で、それぞれの立場での課題の一部を検討会の報告書から抜粋します。

がん患者・経験者

  • がん治療(手術/放射線/化学療法等)に伴う症状(創痛/皮膚障害/脱毛/倦怠感)や影響の期間も様々で身体的な就労制限を伴うこともある。
  • 治療等に伴う同僚への迷惑や自身のキャリアへの不利を感じ、自らが企業に配慮・支援をすることを自粛する。
  • がんになって初めて症状や治療方法について知ることが多く、自身の仕事への影響が予想できない。
  • 今後の見通し情報を医療機関から得たとしても、企業への伝え方、対処方法が分からず早急に「仕事を辞めて治療に専念する」という決断をするケースもある。
  • がん発症を契機に、異動、雇用形態の変化、退職による収入低下。
  • 健康保険法に基づく傷病手当金は最長1.5年継続して受けることができるが、時間単位などの分割で受け取りはできず現在の治療形態に対応できていない。
  • がん患者の看病に関しては、育児・介護休業制度では末期がんの場合が対象とされており、家族の就労継続の制度としては不十分。

医療機関

  • 医療従事者は、治療専念を最優先に考えることから、患者さんが仕事や家事・育児・介護を行っていること意識することが少ない傾向にある。
  • 医療従事者は、職場環境や就労条件、通勤をはじめ家庭環境について把握して、外来から入院治療および治療後の通院中といった様々な場面での治療方針の説明を行うことが難しい。

※現在では医師に切り出しにくい場合には看護師や医療ソーシャルワーカーに話す。また、全国約400ある「がん診療連携拠点病院※4」の「がん相談支援センター※5」で受付けされてます。

企業

  • 「がん」は原則、私傷病であることから、業務上の疾病と違い企業責任で手厚い対応が難しい。
  • がん患者を特別扱いすることは難しく、具体的には、がん罹患による就労力が低下した労働者を同じ職場に配置すると、上司・同僚の負担が増加するケース、士気の低下、がん患者への配慮が不公平感を招くなどの考え方や意見がある。
  • 労務担当者、上司、同僚などは「がん」に対する知識が不十分な場合は、具体的な対策やがん患者の相談先も乏しくなる。
  • 一方で産業医を置く企業では、産業保健スタッフが中心となって医療機関や職場と円滑に相談、情報提供が行われ、就労支援が適切に行われているところもある。

 

これらの課題は報告書の課題の一部ですが、がん患者さんにとって明るい環境ではありません。今や生涯で2人に1人がかかる疾患である状況を、一人々が正しく認識しているとは言いがたく、現実よりも「稀な病気」として認識していることが問題とされています。特に若くしてかかる乳がんでは5年生存率は約9割に達しているが、多くの人は40-50%だと思っており、現実より「治りにくい病気」と認識されているようです。こうした要因としては、体系的にがんについて教育を受ける機会やがんに関する情報が十分でないことが指摘されています。

J.POSHにおいても、これらの報告書を基に検診の受診率の向上だけでなく、正しい乳がんの知識を啓発していくことが重要と考えます。(J.POSH事務局)

 

「がん就労の現状問題」参考文献等

※1
事業場における治療と職業生活両立支援のためのガイドラインhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000113365.html

※2
厚生労働省「がんの社会学」に関する合同研究(平成16年)

※3
NPO法人がん患者団体支援機構・ニッセイライフ共同アンケート結果(平成21年)

※4
がん診療連携拠点病院
専門的ながん医療の提供、地域のがん診療の連携協力体制の整備、患者・住民への相談支援や情報提供などの役割を担う病院として、国が定める指定要件を踏まえて都道府県知事が推薦したものについて、厚生労働大臣が適当と認め、指定した病院です。がん診療連携拠点病院には、各都道府県で中心的役割を果たす「都道府県がん診療連携拠点病院」と、都道府県内の各地域(2次医療圏)で中心的役割を果たす「地域がん診療連携拠点病院」があります。「国立がん研究センターがん情報センターより」

※5
がん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。患者さんや家族あるいは地域の方々に、がんに関する情報の提供、相談にお応えしています。がん専門相談員としての研修を受けたスタッフが、信頼できる情報に基づいて、がんの治療や療養生活全般の質問や相談をお受けしています。

国立がん研究センターがん情報センターより