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2025年 冬号(54号 vol.14 no.4)

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乳がんに向き合う方々へ届ける~研究、そして未来への取り組み~

乳がんに向き合う方々へ届ける~研究、そして未来への取り組み~

がん研究会 NEXT-Gankenプログラム
一般社団法人BC TUBE
家里 明日美

この度は、乳がん研究についてご紹介する機会を頂戴し、心より御礼申し上げます。まず初めに、簡単に自己紹介をさせていただきます。

私は約10年間、信州にて乳腺内分泌外科医として臨床に従事し、患者さんと向き合ってまいりました。その中で、現在の医療ではどうしても救いきれない患者さんに出会うことがあり、よりよい治療を患者さんに届けたいという思いが強くなりました。

大学院入学を機に甲状腺がんの研究に携わり、予後の厳しい一部の甲状腺がんには依然として有効な治療法が乏しい現実を前に、「新しい治療法を生み出すことで社会に貢献したい」という気持ちが芽生え、研究の道へ進むことを決意しました。

■トランスレーショナル研究への取り組み

現在は、がん研究会 NEXT-Ganken プログラムにて、主に乳がんのリンパ管侵襲やリンパ節転移の成立機序を研究しています。トランスレーショナル研究(TR研究)とは、臨床で見えてきた課題を基礎研究で解明し、その成果を再び患者さんへと還元する「橋渡し研究」のことです。私は、臨床で直面した課題を出発点に、診断・治療の向上につなげることを目指してTR研究に取り組んでいます。

乳がんは働く世代・子育て世代にも多いがんであり、リンパ管侵襲は幅広い世代でみられますが、とりわけ産後乳がんに比較的多いことが知られています。進行・再発を左右する重要な因子であるリンパ管侵襲やリンパ節転移はなぜ起こるのか。リンパ管において何が起きているのか。その問いに答えるべく、分子メカニズムの解明と治療戦略への応用を目指して研究を進めています。また、リンパ管侵襲やリンパ流を介した転移の有無を、より低侵襲かつ高精度に診断・予測する検査法の開発にも取り組んでおります。

研究を続けていて強く感じるのは、がん治療の進歩の裏側には、非常に多くの人々の努力と連携があるという事実です。研究室にいると、創薬に関わる多様なステークホルダー(関係者)と接点を持つ機会は多くありません。しかし、2023年に参加したマンスフィールド–PhRMA研究者プログラム(https://mansfieldfdn.org/jp/programs/mansfield-phrma-program/)では、アメリカの創薬エコシステムを構成する政府、大学、研究所、製薬企業、法律家、患者団体など、幅広い関係者の取り組みを見学しました。その中で、創薬が大きな枠組みの中で強力に推進されていることを実感しました。

日本でも規模は異なるものの類似の創薬エコシステムが存在し、アカデミア(大学、研究所など)は「解決されていない臨床の課題」を明らかにし、それに基づく研究から新たな研究シーズを生み出し、創薬エコシステムへ供給する役割を担っています。また、そこで生み出された新しい治療を臨床試験として患者さんとともに世界へ発信していくことも、アカデミアの重要な責務だと考えます。

研究はしばしば遠い世界のものに感じられることもありますが、その先には必ず患者さんや家族、乳がんに向き合う人々の存在があります。私はベッドサイドから研究室へ場所こそ移りましたが、目指すところは変わりません。研究成果を再び乳がんに向き合う人々へ還元したいという思いが、現在の研究の原動力です。

■BC TUBEの活動

2020年、私がボストンに留学していた際、伏見淳先生を中心に、山下奈真先生、田原梨絵先生、そしてSNSを通じてご縁のあった寺田満雄先生とともに、一般社団法人 BC TUBE(https://bctube.org)を立ち上げました。BC TUBE では、YouTube や他のSNSを通じて乳がん・乳房に関する医療情報を無料で発信しています。

BC TUBEから発信している動画は、複数の乳腺科医が作成し、他の専門医の先生方にレビューしていただいた上で、さらに患者さん・市民の皆様からなる「BC TUBE後援会」に事前視聴していただき、わかりやすさや表現の適切さについてご助言いただいてから最終投稿しています。

こうした活動を通じても、乳がんに向き合う患者さんやご家族が少しでも安心して過ごせる社会の実現に向けて、「現在のオンラインにおける乳がん・乳房に関する医療情報の信頼性はどうか」や「社会の興味関心、どういった情報が求められているか」、「BC TUBEが正しくわかりやすい医療情報を提供することで、オンライン医療情報環境を改善できているか」といった研究を進めています。

これからも、乳がんに向き合う方々の未来に少しでも貢献できるよう、研究に真摯に取り組んでまいります。

■マンスフィールド-PhRMA研究者プログラム

マンスフィールド-PhRMA研究者プログラムは、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の支援のもと、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団が実施する、人材育成を目的とした国際研修プログラムである。

医薬品開発や医療に携わる日本の若手研究者を対象に、約2週間、米国(ワシントンD.C.、フィラデルフィア、ボストン)でトランスレーショナルリサーチ、保健医療政策、医薬品研究開発、規制制度などに関わる機関を訪問し、医薬分野を取り巻く幅広いテーマについて学ぶ機会を提供している。

また、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、経済産業省から同世代のオブザーバーも参加し、スカラー同士の議論や交流を通じて相互理解を深める点も特徴である。

2013年から2024年までの過去10年間で、日本各地の大学や研究機関から多様な専門分野の研究者101名が参加してきた。

帰国後は、スカラー同士での活動を継続するとともに、研修で得た知識・経験・人的ネットワークを所属機関や研究コミュニティに還元し、共同研究の推進や日本の研究開発政策の改善、新たなシーズの創出に寄与することが期待されている。

 

家里 明日美 プロフィール

2008年信州大学医学部医学科卒業。同大学附属病院で初期研修および乳腺内分泌外科医として勤務し、2017年に医学博士を取得した。2018年より Harvard Medical School、Beth Israel Deaconess Medical Center にてポスドクフェローとして基礎研究に従事。2020年には、ボストンの乳腺外科医仲間とともに一般社団法人BC TUBEの立ち上げに参画した。2021年に帰国後、がん研有明病院乳腺外科での臨床業務を経て、2023年よりがん研究会 NEXT-Ganken プログラムのクリニカルリサーチフェローとしてトランスレーショナル研究に従事している。