2つの祖国 導かれた医療の道
公津の杜メディカルクリニック
院長
鈴木 ティベリュウ・浩志
私の父は日本人、母はルーマニア人です。日本とルーマニアのハーフと言えば、室伏広治選手です。またルーマニアと言えば、白い妖精ナディア・コマネチ、吸血鬼ドラキュラで有名なトランシルバニア、そして独裁者チャウシェスクでしょうか。私は東京で生まれて2歳の時に、父の仕事の関係でルーマニアに行き、小学校の6年生に日本に帰って来ました。当時のルーマニアはチャウシェスク政権下の社会主義の国でして、私は現地の学校に通っていました。
日本の祖父母が、私が日本語を学べるようにと雑誌や本をたくさん送ってくれました。小学校5年生の時に手塚治虫のブラックジャックを送ってくださり、とても刺激を受けて、私はボロボロになるまで夢中で何度も読み返しました。私が医師、そして外科医を目指す大きなきっかけとなりました。
中学、高校は日本で過ごしましたが、大学は子供の頃に憧れていたブカレスト大学に入学すべく、ルーマニアに戻りました。
当時ルーマニアの医学部は4つしかなく、人口2300万人に対して4つですので、かなりの難関でした。入試はマークシートで理数系+外国語の選択でしたので、言葉の壁もあまり感じずに何とか滑り込む事が出来ました。
ルーマニアの医学部の授業料はタダですが、卒業するのが非常に厳しいです。また将来進みたい科は大学の成績や学士論文、国家試験の成績ですべてが決まります。1年生の頃から同級生はみんなライバルになります。ノートの貸し借りは先ず存在しません。大学での試験は将来がかかっていますので、みんな落第しないように勉強するのではなくて、満点を狙いに行きます。
実習では触診したり、聴診したりとにかく患者さんに触れる事が大事にされていて、心雑音を聞き逃したり、肝腫大を触れなかったりしても実地試験では落とされます。みんな毎日足繁く患者さんの所に行き、何度も触らせて頂いたり、聴診させて貰ったりして感覚を鍛えます。
私は病院実習が始まった大学4年生頃から、漠然と心臓血管外科に進みたいと考えるようになりました。卒業して心臓血管外科に入り充実した日々を送っていましたが、研修医1年目が終わる頃にデンマークのコペンハーゲン大学の心臓血管外科に枠があると教授からお話を頂き、デンマークに行くことになりました。
コペンハーゲン大学の心臓血管外科は開心・バイパス手術が年間800例近くあり、特に小児の心臓手術も多く多忙を極める毎日でした。観光をする暇はありませんでした。デンマークの生活が2年経った頃、突然急性膵炎で倒れてしまいました。おそらく疲労、ストレスが原因です。入院中急に異国の地にいるのがとても寂しくなり、両親のいる日本に帰る事を決断しました。私の人生の大きな転換期になりました。
日本に帰って来てもすぐに医師として働ける訳ではなく、書類審査や認定試験を合格すると医学部卒業相当と認定され、国家試験を受ける事が出来ます。
父が医学部ではありませんが千葉大出身ということで、心臓血管外科のある千葉大学第1外科に入局する事にしました。当時の千葉大の心臓血管外科の開心・バイパスの手術件数は年間80例程度で、やはり手術数をこなさないと上手くならないという思いもあり、心臓血管ではなく一般外科医を目指す事にしました。出張先の病院では乳腺の患者さんを診る事が多く、乳腺の専門医も少ない現状にも直面し、いつの間にか乳腺専門医を目指していました。
千葉大に戻り大学院を卒業した後、教官もさせて頂きましたが、医師としての仕事よりも会議等の雑用が多く、外来や手術をする機会が少しずつ減ってしまい、悶々としていました。また様々な研究にも携わり、科研費を頂きましたが、乳がんは早期発見が何よりも大事という結論に至りました。そんな中、成田での開業の話が浮上し、開業は全く考えていなかったのですが、乳がんの早期発見に携わる草の根活動を地方からと考え、元々の憧れであるオールマイティに患者さんを診られる環境に近づけるとも考え、開業を決心しました。
ルーマニアでもピンクリボン運動は盛んに行われています。ルーマニア人女性の8人に1人が乳がんに罹患すると言われています。乳がんは女性のがんの中で罹患数は1位、がんによる死亡者数では3位です。検診受診率は50%前後で、ヨーロッパの中では低く、深刻な問題となっています。私の親戚や友達、同級生もたくさん居るため、心配です。現在の成田での乳がんの早期発見を中心とした日々の診療やピンクリボン運動に邁進すると同時に、今までの経験を生かし、微力ながら両国の架け橋となり、ルーマニアのピンクリボン運動にも少しでも寄与し恩返しが出来たらと考えています。
鈴木 ティベリュウ・浩志 (52歳)
2児の父 (父:日本人 母:ルーマニア人)
人生の半分を海外で過ごす
【経歴】
平成10年 ルーマニア国立ブカレスト医科薬科 総合大学医学部 卒業 同附属病院
平成12年 デンマーク王立コペンハーゲン大学 医学部附属病院
平成14年 千葉大学医学部附属病院 臓器制御外科学
平成23年 千葉大学医学部附属病院 乳腺甲状 腺外科 助教(文部科学指導教官)
平成26年 4月 公津の杜メディカルクリニック 開設
【資格等】
医学博士(千葉大学大学院医学薬学府卒業)
EU通用医師免許
日本外科学会 専門医
日本乳癌学会 認定医・専門医
日本がん治療認定機構 認定医
日本乳がん検診精度管理中央機構 マンモグラフィ読影認定医師
日本乳がん検診精度管理中央機構 乳房超音波医師