ピンクリボンNEWS

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27号 vol.8 no.1

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放射線による医療被ばくについて

乳がん啓発運動のピンクリボン色(桜の開花)に全国が染まる時期ですね。
市民公開講座「乳がんの診断から治療まで~放射線と上手に付き合うために~」は、2018年10月6日(土)13:00~16:00仙台市の仙台国際センターで開催しました。認定NPO法人J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動)の方々にも広報していただき、一般市民の方に多数参加いただきました。

主催した公益社団法人 日本放射線技術学会(https://www.jsrt.or.jp/data/)は、マンモグラフィやCT、MRI、PET-CT、放射線治療などを行っている診療放射線技師が多く所属している学会です。今回の市民公開講座は、第1部 『放射線を正しく理解しよう』は、2つの講演で、「知っておこう!放射線」、「放射線の医学利用は凄い!」、第2部 『乳がんの画像検査』は、3つの講演で、「知りたい!乳がん検査のいろいろ」、「乳がん検診の被ばくって怖いの?」、「乳がん治療を支える画像検査最前線」を行いました。

放射線を使用するには、正当化・最適化・線量限度という大前提があります。医療における放射線利用は、損益(放射線被ばく)より利益(的確な診断や治療)が多い時のみ使用する(正当化)と診断をするために必要な線量(多すぎもせず、少なすぎもしない)を使用する(最適化)という前提があります。線量限度は、患者さんの利益を損なうことを危惧して設定されていません。このことを一般市民の方に理解していただきたくて、市民公開講座を開催してきました。

放射線の人体への影響は、確定的影響と確率的影響の2つです。確定的影響は、表①の「しきい線量」(放射線を受けた集団の約1%の方に影響が表れる線量)を超えないと発現しません。線量が多くなると症状が重くなります。確率的影響は、発がんがあげられ、しきい線量(被ばくの安全線量)が存在せず、線量の増加によって影響の発生確率が増加するものです。国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection 、 ICRP)では、過去の様々なデータから「直線しきい値」なし(LNT)モデルを提唱しています。日本もその考え方を踏襲しています。LNTモデルは大量摂取時の影響の大きさ(原爆時のデータ等)をもとにして、少量摂取時の影響の大きさを比例する形で見積もったものです。被ばく線量がどんなに小さくても発がんリスクは存在すると仮定するもので、100mSv(ミリシーベルト:実効線量)の被ばくを受けると発がんリスクが0.5%上乗せされるというものです。ただし、100mSv未満の線量では被ばくによりどのような影響があるかは明らかになっていません。

 

 

乳がんの診断には、放射線を使用するマンモグラフィ、トモシンセシス、PET-CT、CT、放射線を使用しないエコー(超音波)、MRIなどたくさんの検査があります。それぞれの検査には、得意・不得意があります。
マンモグラフィは、死亡率減少効果がある(科学的に証明)とされる検査で、がんと指摘したものが“がん”だと判断できる精度(感度)は80%前後と言われています。小さなしこりや非常に細かな石灰化のある初期の乳がんを発見できます。そのような理由で検診にはマンモグラフィが選択されています。がんだけでなく良性のものも見つかりますが、すべての病変を映し出せるわけではありません。乳腺密度が高い人や若い人への検査にはエコーの方が適しています。マンモグラフィとエコーを併用した場合、発見がん数は1.5倍に上昇したという研究もあり、今後の総合判定方法の向上に期待が持たれています。
実際に病院で受ける検査の線量の目安の表を記載します。(表②)

 

 

マンモグラフィの被ばくは、乳腺が受ける線量として2mGy 程度です。この線量で確定的影響は発生しません。また、実効線量として2mSv程度ではがんにもなりません。
欧米では60~80%の女性が2年に1回の割合でマンモグラフィ検査を受けていて乳がんで亡くなる方は減少していますが、日本ではマンモグラフィ検査の受診率が40%程度で現状では乳がんで亡くなる方が増え続けています。

J.POSHのHPにもありますように乳がん10年生存率は非浸潤がんである早期に見つけて治療すれば95%程度ありますが、がんが進行したⅣ期で見つかると25%程度しかありません。40才を超えたら2年に1度はマンモグラフィをというのは、被ばくするデメリットより早く見つけるメリットの方が大きいことになりますので、ぜひ受けていただければと思います。CTやPET-CTでの被ばくはマンモグラフィより大きなものになりますが、乳がんがありその広がりの診断や転移の精査などが詳しくわかるため、これも確実な治療をするメリットの方が被ばくというデメリットを超えるので、受けた方がよいです。これらの検査も一回の検査で確定的影響が出る線量ではありませんし、確率的影響もほとんど問題にはならない線量です。

放射線は全くリスクがないものではありませんが、医療における利用にはメリットも大変多いものです。ぜひ、正しく怖がり、自分や周りの方にとって、正しい判断をしてご使用いただければと思います。

─ 参 考 ─

Gy(グレイ):放射線によって人体をはじめとした物体に与えられたエネルギーを表す吸収線量の単位。(1キログラムの物質が1ジュールのエネルギーを吸収した時 1J/Kg)
Sv(シーベル):①人体が受けた放射線の影響は、放射線の種類によって異なるため、吸収線量値(グレイ)に補正係数(放射線加重係数)をかけてあらわした線量が等価線量です。各臓器の被ばく線量になります。
Sv(シーベル)=補正係数×Gy(グレイ)
X線、ガンマ線、ベータ線 の場合1
陽子線 2  アルファ線 20
②人体が受けた放射線の影響は、受けた臓器によっても変わります。受けた臓器の補正係数(組織加重係数)をそれぞれの臓器の等価線量にかけて全身の分を足した線量が実効線量です。確率的影響の評価に使用します。

 

NTT東日本関東病院
放射線部
特別医療技術主任
塚本 篤子